大阪地方裁判所 平成6年(わ)3179号 判決 1995年7月07日
裁判所書記官
森康清
本店所在地
大阪市浪速区芦原二丁目八番一九号
新星商事株式会社
(右代表者代表取締役 森雅之)
本籍
大阪府堺市一条通七番
住居
同市四条通五番五号
会社役員
森雅之
昭和二三年一一月二三日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官藤田信宏出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人新星商事株式会社を罰金一九〇〇万円に、被告人森雅之を懲役一年にそれぞれ処する。
被告人森雅之に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人新星商事株式会社(以下、「被告会社」という。)は、大阪市浪速区芦原二丁目八番一九号に本店を置き、屋根工事業等を営む資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人森雅之(以下、「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括している者であるが、被告人は、被告会社経理責任者森加代子及び被告会社営業責任者藤井敏尋と共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て
第一 被告会社の平成元年一一月一日から平成二年一〇月三一日までの事業年度における実際の所得金額が六八九八万七〇三九円で、これに対する法人税額が二六六一万〇五〇〇円であるのに架空の仕入を計上するなどの行為により、その所得金額のうち五八五六万三七一九円を秘匿したうえ、同年一二月二八日大阪市浪速区難波中三丁目一三番九号所在の所轄浪速税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が一〇四二万三三二〇円これに対する法人税が三一八万四九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同事業年度の正規の法人税額との差額二三四二万五六〇〇円を免れ(別紙1-1の修正損益計算書及び別紙2-1の税額計算書参照)
第二 被告会社の平成二年一一月一日から平成三年一〇月三一日までの事業年度における実際の所得金額が一億三〇三一万一五一二円で、これに対する法人税額が四七九四万八四〇〇円であるのに、前同様の行為により、その所得金額のうち一億二七六二万八八九九円を秘匿したうえ、平成四年一月四日、前記浪速税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が二六八万二六一三円これに対する法人税が五九万二七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同事業年度の正規の法人税額との差額四七三五万五七〇〇円を免れ(別紙1-2の修正損益記計算書及び別紙2-2の税額計算書参照)
第三 被告会社の平成三年一一月一日から平成四年一〇月三一日までの事業年度における実際の所得金額が四四九七万七六二二円で、これに対する法人税額が一五八一万九九〇〇円であるのに、前同様の行為により、その所得金額の全部を秘匿したうえ、平成五年一月四日、前記浪速税務署において、同税務署長に対し、欠損金が六七〇万五六八一円で、これに対する法人税が零円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同事業年度の正規の法人税額との差額一五八一万九九〇〇円を免れ(別紙1-3の修正損益計算書及び別紙2-3の税額計算書参照)たものである。
(証拠の標目)<注>括弧内の算用数字は記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)記載の当該番号の証拠を示す。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書一一通(56ないし60、62、64ないし68)
一 森加代子(六通)、寺本庄一、寺内正、松永浩夫(二通)の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の捜査報告書
一 収税官吏作成の査察官調査書一七通(11、12、15、16、20、21、24ないし27、29ないし32、35ないし37)
一 法人の登記簿謄本
判示第一、第二の事実について
一 玉城典久、寺内勇次の検察官に対する各供述調書
判示第一、第三の事実について
一 収税官吏作成の査察官調査書(14)
判示第一の事実について
一 中川雅弘の検察官に対する供述調書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(1)
一 大蔵事務官作成の証明書(4)
一 収税官吏作成の査察官調査書二通(17、23)
判示第二、第三の事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書二通(61、63)
一 江上治幸の検察官に対する供述調書
一 収税官吏作成の査察官調査書七通(8、10、13、18、28、33、38)
判示第二の事実について
一 岡本保穂の検察官に対する供述調書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(2)
一 大蔵事務官作成の証明書(5)
一 収税官吏作成の査察官調査書(19)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(3)
一 大蔵事務官作成の証明書(6)
一 収税官吏作成の査察官調査書四通(9、22、34、39)
(法令の適用)
被告人の判示各所為は、平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)六〇条、法人税法一五九条一項に該当するが、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は旧刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、判示各所為につき、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用して、罰金額をその免れた法人税の額以下とし、以上の旧刑法四五条前段の併合罪なので、同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金一九〇〇万円に処することとする。
(量刑の事情)
被告人の本件犯行は、ほ脱額が三期合計で八六六〇万一二〇〇円と高く、そのほ脱率も三期平均して九五・八パーセントと極めて高率であり、不正手段として被告人は架空の下請業者を利用して架空の仕入れを計上するなどしたものであり、悪質な犯行と言わざるを得ない。また、被告人は、本件犯行の動機として、会社の業績悪化に備えて裏金を作り、従業員に支払う裏賞金を確保し、また、被告人自身も自己の利得を得たいと考えたことにある旨述べるが、業績悪化に備えることは本来税引後の内部留保資金によってなされるべきものであり、また、従業員の賞金については別途適正な経理処理をなすべきもので、動機において特に酌量すべきとも思われない。
しかしながら、被告人は本件各犯行を認め、自ら積極的に捜査に協力する等反省の態度を示していること、被告会社はすでに修正申告を済ませ、本税延滞税重加算税等をほぼ納めていること、本件を契機に税理士に月二回の割で来てもらう等経理体制を改善したこと、被告人には業務上過失傷害罪による罰金前科があるだけで懲役刑の前科がないこと、被告人は妻と子供がおり、現在は一緒に暮らしていること等被告人に有利な事情として考慮して、被告人に対しては主文の刑に処するがその刑の執行を猶予することとし、また、被告会社については主文の刑が相当であると思慮する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 松下潔)
別紙1-1
修正損益計算書
<省略>
別紙1-2
修正損益計算書
<省略>
別紙1-3
修正損益計算書
<省略>
別紙2-1
税額計算書
<省略>
別紙2-2
税額計算書
<省略>
別紙2-3
税額計算書
<省略>